何も見つけられなかったからあなたに私を解いてもらった。
何もかもが解けていって、痛みさえ判らなかった。牙は痛かったのだろうか。傷は残ったのに。
痛みは忘れた。きっと、あなたの方が痛かったのだろうけど。傷もあなたの方が深いのに。
何も見えない場所だった。唯、彼だけが見える。
冷たくて、昏い。
水の底。
あそこには何があった?
もう、覚えていない。
水の底に、綺麗なガラス玉を捨てた。たくさん、捨てた。
玩具を捨てた。三色のすみれの花を捨てた。要らないものはみんな捨てた。
何も無くなった。
彼だけが残った。
彼だけが、残った。
あなただけだったのだ。私が欲しかったのは。
知りたいことは他にもあったけれど。何も知ることができなかったから、
せめてあなたに私を解いてもらった。
傷は残ったのに。
どうして痛くないの。
あなたは不器用な人だ、と少し笑ってみたが、
ただ冷たさを感じるだけで。
最後まで、酷い人だ。 私にだけ傷を残して。
私があげた小さな傷も、もっと大きくて深い、消えない傷があるから忘れて。
そして私のことも。
息が苦しい。眼が霞む。からだが寒い。もうあなたが見えない。
あなたにあげなかったクローバーの葉、どこにもない場所、刻まれない歴史。
白く 白く 白く。 夜は明けなかったのに。
あの月はもう 見えないのに。
全て、白く。
そして私が目を醒ましたとき。
夜は明けて。
私が捨てたものは、少しだけ、この手に在ったのに。
あなたの姿はもう、
見つけることすらできなかった。